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定額残業代の相談(会社側)は導入する前にしてほしい理由―就業規則専門社労士として多くの相談を受けて思うこと

9月21日
読了時間: 8分

更新日:9月23日


定額残業代の相談-就業規則の専門事務所が思うこと

1.定額残業代の相談を受け続けて思うこと~ 導入前にご相談いただきたかった


定額残業代は、一定額・一定時間数分の残業代を毎月あらかじめ支給する制度で、固定残業代とか定額残業代と呼ばれることもあります。基本給に組み入れるパターンもありますし、手当として支払うパターンもありますが、定額残業代は、既に改めて解説する必要もないほど、多くの企業で導入している制度だと思います。定額残業代を知らないという人はほとんどいない制度だと言えるのではないでしょうか。


実際、就業規則の専門事務所である当事務所でも、定額残業代はトップレベルに多いご相談なのですが、この制度は、導入後に不都合が生じてからご相談にお越しになる方が多い制度の1つであります。そのとき、「定額残業代を導入する前に相談してほしかった」と思うのことが非常に多いのです。


制度を導入する前であれば、「定額残業代をどう導入するか」だけではなく、「そもそも定額残業代を導入する必要があるのか」「他の選択肢があるのではないか」というところから一緒に考えられるからです。


2.定額残業代を導入する前に、まず、明確にしていただきたいこと~導入目的


定額残業代を導入する前に、まず、明確にしていただきたいのは、この制度の導入の目的です。つまり、何を解決したいのかです。


「何を当たり前のことを言っているんだ。そんなの、残業代を削減したいからに決まっているだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。


しかし、定額残業代の導入の目的が「直接的に残業代を減らしたい」という目的であるなら、定額残業代の導入はやめた方が良いでしょう。なぜなら、定額残業代は、同じ時間働かせながら残業代だけを安くする制度ではないからです。


2-1.定額残業代は残業代を直接削減する制度ではありません


残業代削減にならないと聞いて、「そんなはずはない」と思われた方も多いと思います。そこで、まずは、残業代の削減にならない理由をご説明します。


例えば、毎月30時間分の定額残業代を支払うことにしたとします。この制度は、「30時間までは残業代を支払わなくてよい」という制度ではありません。1時間しか残業をしない月でも30時間分の残業代を支給し、30時間を超えた分については追加して1分単位で残業代を支給する制度です。残業代をできるだけ少なく支給したいのであれば、実際に働いた時間数分を支払う方が1番金額は少なくなります。


「あらかじめ〇万円(〇時間分)を支給します。それを超えたら、その時間数分を追加して支給します」という制度ですので、直接的な残業代削減につながるものではないのです。


2-2.定額残業代は残業代の最低保証です


定額残業代が残業代削減につながらないということはご理解いただけたと思うのですが、では、定額残業代とは、どういう性質の制度なのでしょうか。


先ほどお話をした通り、定額残業代は、毎月40時間分の定額残業代を支給すると定めている場合、社員から見れば、1時間しか残業をしない月でも40時間分の残業代が支給され、40時間を超えれば、その超過分についても残業代が追加支給されるという制度ですよね。

つまり、定額残業代は残業代の最低保証給としての性質を持つことを意味しています。


残業代を削減したいのであれば、1分単位で残業代を支払っていくことが1番合理的です。


定額残業代が残業代削減にならないことを具体例で示す図表

2-3.定額残業代は導入目的の具体例


定額残業代が残業代の最低保証としての性質を持つことは間違いありません。以下の使い方はできません。


「40時間分の残業代を会社は支給するので、社員は40時間以内に残業を抑えるようにしなければならない。40時間残業しない月も40時間分支払うのだから、仮に、40時間を超えても、会社は追加して残業代を支払うことはしない」


上記の使い方ができないとなると、「会社にメリットはないのではないか?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。「定額残業代が残業代の最低保証としての性質があること」と、「定額残業代を残業代の最低保証を目的として支払うこと」は別の話です。


例えば、具体例を一つ挙げると、「定額残業代の、残業代の最低保証としての性質」を踏まえて、残業時間自体を減らすことは可能です。


■ 残業代の最低保証の性質を使って、残業時間を減らすための設計


例えば、毎月のように、社員が40時間の残業(時間外労働)をしていたとします。しかし、効率的に業務を行えば、基本的に30時間以内の残業で済むと会社が考えた場合、定額残業代を40時間分支給すれば、社員は30時間で残業を終わらせてくれるでしょう。効率よく仕事をして30時間で終わらせても、今まで通りの賃金がもらえるからです。効率的に業務を行うインセンティブが働きます。もしかしたら、もっと残業時間が減るかもしれません。会社にとっても新たな支出があるわけでもなく、残業時間を減らすことができます。このように設計された定額残業代を業務効率手当と呼ぶことがあります。


ただし、このケースの場合、残業代を削減する効果はありません。それでは、残業代自体を減らすことはできないのでしょうか。


■ 定額残業代の導入で労働時間を減らすための設計


定額残業代の導入で残業代を減らすには以下の条件が必要です。

  1. 労働時間が減ること

  2. それが定額残業代の導入で達成できたと言えること


この2つを満たすことができなければ、1分単位で残業代を支払っていく方が1番残業代は減ります。どう設計するかは会社の個別事情が関わりので、一概には言えません。


なお、ここで、労働条件の不利益変更の話に触れさせていただきます。例えば、「今まで30万円だった基本給に20時間分の残業代を含む」ことにすると、時給単価が下がり、かつ、20時間までの残業代の支払いは不要になります。


しかし、これは、定額残業代の導入で残業代削減を達成したというより、「労働条件の引き下げ」で残業代を削減したということになります。労働条件の不利益変更の話です。これを行うためには、労働条件の不利益変更の手続を踏まえる必要があります。労働条件の不利益変更については、「就業規則の不利益変更|トラブル回避の進め方」で詳しく解説していますので、ここでは扱いません。なお、労働条件の不利益変更は簡単にできるものではなく、実務上かなりハードルが高い問題です。


定額残業代の導入で残業を減らす方法及び残業代削減の条件を示した図

2-4.定額残業代は導入目的 まとめ


このように、定額残業代は、何を目的として導入するのかによって、その活かし方が変わります。残業代には残業代の最低保証という性質はありますが、「これだけの残業代を保証します」という目的で支給する必要はないのです。残業代を削減したいのか、残業時間そのものを減らしたいのか。又は、違う目的か。定額残業代を導入する前に、まず、その目的を明確にすることが重要です。


3.どのような結論をとるにしても、制度の趣旨を理解し納得の上で導入をすることが重要です


定額残業代を導入したいという前提で当事務所にご相談に来られても、定額残業代の制度の趣旨を丁寧にご説明すると、導入をやめる企業がかなりあります。企業の目的・実態に定額残業代が合っていないとご判断されたからです。そして、多くの企業が自社の目的に合った他の方法をご選択されました。


制度を作る前であれば、選択肢はたくさんあります。

  • 会社が本当に解決したい問題は何なのか。

  • その目的を達成するために、本当に定額残業代が必要なのか。

  • 他の手段はないのか。

  • 定額残業代が必要だとしても導入することの弊害はないのか。

  • 弊害があるなら、その対策は可能か。

このような形で、丁寧にお話を伺えば、企業の目的は定額残業代以外の方法で解決できることが多いものです。


ところが、後に、定額残業代制度を変更したいなったとしても、定額残業代を導入してからでは取れる手段が限られてきます。一度導入した制度を、社員に不利益な方向へ変更することは簡単なことではありません。そもそも、法律の話を抜きに考えても、社員の反発が強くて単純な廃止・減額は大変ではないでしょうか。


だからこそ、導入前にご相談をいただきたいというのが定額残業代の相談を受け続けてきて思うことです。


中には、制度を理解したうえで、しかも、自社の目的とは少しズレていることまで理解したうえで導入の決断した企業もあります。大切なのは、制度の趣旨を完全に理解し、自社の目的と照らし合わせたうえで、決断を下すことです。


定額残業代の相談はいつが良いかをメリット・デメリットと共に示した画像

最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。


執筆者

フェスティナレンテ社会保険労務士事務所

代表・特定社会保険労務士 小嶋裕司


執筆者プロフィール(実績)

業務の99%超を就業規則関連が占める就業規則専門の社会保険労務士。就業規則の作成・見直しに伴い、労働時間・残業代・賃金などの労働条件に関する問題を専門分野としている。その中でも、特に、残業代の問題に強く、取り扱った事例は400以上。定額残業代の導入・見直し、未払い残業代対策、残業削減、労働時間管理の見直しのほか、M&A前の労務・残業代コンサルティングにも対応。残業・残業代に関する専門記事の寄稿実績も多く、HRプロ、ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」、株式会社クロスキャット「HRブログ」、事業承継協会機関誌『ツナグ』などに執筆


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