就業規則の不利益変更をわかりやすく社労士が解説|成果主義賃金の事例で解説します
- 特定社会保険労務士 小嶋裕司
- 2024年7月22日
- 読了時間: 8分
更新日:2月13日

【良くある質問】成果主義賃金への移行は就業規則の不利益変更ですか?
良くいただくご質問です。結論から申しあげると、不利益変更に当たります。成果主義賃金への移行で賃金が上がることもあれば、下がることもあるからです。
しかし、会社は、何年、いや、何十年と続いていく中で、社会情勢など想像もしていないことが起きます。経営危機に陥ることもあれば、時代の変化によって、抜本的に制度を変えないといけなることもあるでしょう。そんな中で、就業規則を変更しないといけなくなることも出てきます。
当然、年功序列型の賃金から成果主義賃金へ舵を切らないといけないこともあるでしょう。それが、「不利益な変更だから一切できない」ということにはならないはずです。それすらできないのでは、いったん決めたことは何も変えられないということになってしまいます。
そこで、このページでは、成果主義賃金への移行の話を取り上げつつ、就業規則の不利益変更が認められるために必要なことや進め方についてご説明します。
就業規則の不利益変更が認めらえるために必要なこと
そもそも、就業規則の不利益変更とは何か?
まず、最初に明確にしておきたいことがあります。それは、就業規則の不利益変更の定義です。中には、ルールを整備することも就業規則の不利益変更だと考える方もいます。それは、誤解です。そういった誤解を防ぐためにも、イメージで語るのではなく、正確な定義を明らかにしたいと思います。
この話を踏まえて頂ければ、「就業規則の不利益変更が厳しく判断される理由」もご理解いただけるはずです。
労働契約法第9条・10条
就業規則の不利益変更は、労働契約法9条・10条に条文があります。条文の全文を掲載すると長くなりますので、整理して表にしてみました。
原則(労働契約法9条) | 例外(労働契約法10条) |
就業規則の変更で労働者の労働条件を不利益に変更するには労働者の同意が必要です | 以下の場合には、(労働者の同意がなくても)労働条件を就業規則で不利益に変更することが可能です。 ➀変更後の就業規則を労働者に周知していること、かつ、 ➁変更後の就業規則の内容が、以下の事情に照らして、合理的なものであること ・労働者の受ける不利益の程度 ・労働条件の変更の必要性 ・変更後の就業規則の内容の相当性 ・労働組合等との交渉の状況 ・その他の就業規則の変更に係る事情 |
上記の表をご覧いただければ、ご理解いただけると思いますが、就業規則の不利益変更とは、労働者の労働条件を就業規則で不利益に変更する場合の話です。
賃金は労働条件です。成果主義賃金への移行は、今まで保証されていた賃金が下がる可能性もあります。そこで、冒頭で申し上げた通り、不利益な変更にあたるのです。この論争には決着がついていると考えて差し支えないと思います。
なお、当然、今までの賃金を保証した上で、追加で成果給を払うのなら不利益変更には当たりません。
【原則】就業規則の不利益変更には、社員の同意が必要
就業規則の不利益変更だということになったら、次に、「就業規則の不利益変更が認められるためには何が必要か?」が問題になります。
労働契約法では、就業規則の不利益変更には社員の同意が原則となってます。ここでいう、社員の同意とは、社員の代表者ではなく、社員の個別の同意です。
社員の労働条件を就業規則で変えるのですから、社員の同意が「原則」なのはご理解いただけると思います。就業規則は会社が作成するものです。変更も同様です。社員が就業規則の作成・変更過程に関与できるのは過半数を代表する労働者が意見を述べるだけです。
もし、会社が「就業規則で」社員の労働条件を同意なく引き下げることができたら、大変なことです。そこで、あくまでも、社員の「同意が原則」となっているのです。
【例外】社員の同意がなくても就業規則の不利益変更が認められることがある!?
労働条件を個別の雇用契約書で定めている場合には、その労働条件を不利益に変更するには必ず本人の同意が必要です。個別契約の場合は例外がありません。
しかし、就業規則の場合には、例外として、変更後の就業規則の内容が合理的であれば、社員の同意がなくても、就業規則で社員の労働条件を不利益に変更することが可能ということになっています。
社員の同意がなくても会社が作成した就業規則で社員の労働条件を不利益に変更できるのですから、当然、変更後の内容に合理性が認められるかに関しては厳しく判断されます。
この合理性の判断については、表の②の要素を判例等を参考に個別の事情を考慮して判断するしかありません。
労働者の受ける不利益の程度・就業規則の変更の必要性(の高さ)に加えて、「就業規則の社員への説明(就業規則の社員説明会)」「経過措置を設けること」「代償措置」などが重要になってきます。就業規則の社員説明会については「就業規則社員説明会が必要かつ有効な理由」をお読み下さい。
合理性の判断についての検討
以下の2つの事例をお読みいただき、「変更後の内容に合理性があるか」「合理性の程度に違いはないか」を考えてみて下さい。
【事例1】残業削減の取組の結果、残業が少なくなったので、(残業をしてもしなくても)40時間分支給していた定額残業代の支給を一律やめる。
【事例2】年功序列型賃金から成果主義賃金へ移行する。賃金が増える社員もいれば減る社員もいる。それはご本人次第。
いかがでしょうか?「両者が同じわけがない」ということはご理解いただけると思います。事例2の方が合理性が認められやすいです。もちろん、労働契約法10条(図表の右欄)の不利益変更の手続に則っていくことは必要です。
その一方、事例1は、変更後の内容に合理性があるとは認められづらく同意が必要になりますが、事例1のケースも単に廃止・減額するのではなく、成果給として支給していくのであれば、事例2と同じになります。
ちなみに、成果主義賃金への移行は、「あるポイント」を踏まえることで、合理性が認められやすくなります。実際、ほとんどの企業では、そのポイントを踏まえて成果主義へ移行しているにもかかわらず、社員に説明をしていません。それが社員の不安を呼びトラブルの原因になっています。
成功事例から学ぶ就業規則の不利益変更の進め方
確かに、就業規則で社員の皆さんの労働条件を引き下げる場合には、変更後の内容に合理性があっても、社員の皆さんの同意を得て進めるのが1番です。しかし、社員数が多ければ全員の同意を得るのは現実的ではありませんよね。
その場合の対応は、会社個別の事情が大きく影響するため、一概には言えませんが、当事務所は概ね2パターンをご提案しています。それで、大きなトラブルなく新制度の導入が進んでいます。
また、社員への説明はとても重要です。お客様企業からは、「説明の方法を提案してもらったおかげで自信を持って説明でき、社員の同意を得ることができました」との声をいただいています。
就業規則(関連)に特化した専門事務所ですので、様々なケースに携わらせていただきましたが、社員の皆さんの反発は、内容を伺うと4種類に集約されます。それを踏まえた対応を事前に行うことで新制度への反発を弱めることができます。
もちろん、同意してくれない社員も中にはいらっしゃいますが、少数であれば個別に対応することで対応可能でしょう。
いずれにせよ、大切なのはトラブルが起きないよう法律を踏まえつつ、同時に、会社としても現実的な選択をすることです。
雇用契約書で定めることの意味を考えて下さい
就業規則の不利益変更について、今まで解説してきましたが、合理性の判断が厳しいと言われます。「個別の同意をとるのも現実的ではない」というご意見も良くききます。
確かに、そういう面はありますが、社員の同意がなくても認められるケースがあるのです。
全てを雇用契約書で定めていた場合と比較してみてください。労働契約を社員の不利益に変更するには社員の個別の同意が必ず「全員」必要になります。
例えば、成果給への移行として歩合給を導入する際、「歩合の割合を個別の雇用契約書に定める」などと就業規則に規定したら、どうなるでしょうか? ここまでお読みの方であれば、その意味をご理解いただけると思います。何を就業規則に定めるかはよく考えて新しい制度へ移行してください。
就業規則の不利益変更には専門的なサポートが必要!?
今回は、就業規則の不利益変更について解説しました。不利益変更の話は一般論としてお話するのには限界があります。
個別具体的な事情によって変わってきますので、具体的なお話は専門家にご相談することを強く推奨します。
不利益変更が問題になるのは賃金をはじめとした労働条件に関する部分です。会社が受ける影響が大きいので、そういう意味からも、「現実的な対応策(事例)を多く持つ専門家」「過去に、同じような事例を何度も経験した専門家」にご相談することをお勧めします。
当事務所でも無料相談を行っております。就業規則(関連)に特化した専門事務所(事務所業務の99%超)です。その中でも賃金をはじめとした労働条件の相談が中心です。
1日時間無制限で行っておりますので、中々一般化できず、ここでは書けなかったことについても、御社の事情に合わせてご説明できます。
無料の理由や条件などをご説明していますので、詳細は、「就業規則訪問無料相談ページ」をご覧ください。お問合せなどはページ右上のお問合せフォームからお願いします。
執筆者
フェスティナレンテ社会保険労務士事務所
代表・特定社会保険労務士 小嶋裕司
執筆者プロフィール
就業規則の関連業務で業務の99%超を占める、就業規則の専門社労士である。クライアントに老舗企業が多いのが特徴である(創業30年以上の企業が6割、50年以上の企業も3割)。長い歴史の企業からの業務の依頼が中心のため、就業規則の見直しが約9割を占める。そのため、新規の就業規則作成時には生じない就業規則の不利益変更の問題には特に強い。