【歩合給 残業代の本質】なぜ、歩合給には割増賃金が少なくて良いのか?~通常の賃金と計算方法が違う理由
- 特定社会保険労務士 小嶋裕司
- 2024年3月27日
- 読了時間: 7分
更新日:3月26日

歩合給(出来高払給)は通常の賃金よりも割増賃金が少なくて良いということはご存じでしょうか?割増賃金の額が圧倒的に少なくなります。
この計算方法が認められているがゆえに、歩合給は、毎月支払われる賃金としては唯一の成果給といって良いとすら考えています。それは、この記事をお読みいただければ、ご理解いただけると思います。
そこで、まず、歩合給とは何かについてですが、一言で言うと、「出来高払い制その他の請負制 によって定められている賃金」のことを言います。以下で簡単にまとめています。
| 歩合給 | 出来高給 |
何に対して 支払われるか | 売上や利益などの結果に対して支払われる | 生産した量(数)や完成した仕事の単位に対して支払われる |
指標は何か? | 売上や利益などが成果の主要な指標となる場合 | 成果物(仕事)が物量で測れる場合 |
計算式例 | 指標(利益)×○% | 個数等×○円 |
上記の表は、あくまでも一例だとお考えください。また、通常の賃金と歩合給の計算方法の違いなどの詳細や完全歩合が違法なのか等の基本的な知識は、当事務所のもう一つのブログで詳細に解説していますので、以下のブログをご覧ください。
この記事では、上記の基本的な知識を踏まえた上で、「なぜ、割増賃金の計算方法が違うのか?」という歩合給の本質という「一歩突っ込んだ深い話」をさせていただきます。
ただ、その前に、まずは、「基本給で賃金を支払った場合と、歩合給で賃金を支払った場合」の金額の違いを確認いたします。
【事例】全額基本給と全額歩合給で30万円が支払われた場合の割増賃金額の違い
ある会社のAさんの賃金30万円が以下の2パターンで支払われた場合に、どれぐらい割増賃金が違うのかを計算してみます。
全額基本給で支払われた場合
全額歩合給で支払われた場合
なお、以下を前提に考えます。
1か月の平均(及び当月の)所定労働時間:160時間
今月のAさんの残業時間:60時間で計算
※ また、この会社では160時間を超えたところから法定時間外割増賃金(1.25)を支払っているという前提で解説します。
①全額基本給で30万円支払われた場合
{基本給(30万)÷1か月平均所定労働時間(160時間)} ×(1.25)×時間外労働時間数(60時間)=(割増賃金の月額)14万625円
賃金総額 基本給30万+14万625円 = 44万625円
②全額歩合給で30万円支払われた場合
{歩合給(30万)÷1か月の総労働時間(160+60時間)} ×0.25×時間外労働時間数(60時間)=(割増賃金の月額)2万455円
賃金総額 歩合給30万+2万455円 = 32万455円
いかがでしょうか?歩合給 残業代の計算方法が違うため、賃金総額が1カ月で12万円以上違ってきます。
通常は、上段①のように、賃金を1か月の平均所定労働時間で割って時給単価を出して、それに、1.25をかけて、1時間の割増賃金の単価を出します。そして、時間外労働の時間数をかけてその月の時間外の割増賃金額が決定します。
一方、歩合給は、歩合給をその月の総労働時間で割って1時間の単価を出します。時給単価がぐっと安くなります。しかも、それに、1.25ではなく、0.25をかけて時間外割増賃金の単価を出します。それに時間外労働時間数をかけて、その月の時間外の割増賃金総額が決定します。
したがって、両者の賃金の総額がこれほど違ってくるのです。
なぜ、歩合給の割増賃金の計算方法は違うのか?
そこで、次に、生じる疑問ですが、「なぜ、計算方法が違うのか?」です。もっと言うと、なぜ、歩合給には、こんな計算方法が認められるのかです。その答えは、以下の通達にあります。
「賃金が出来高払い制その他の請負制(歩合給)によって定められている労働者に関しては、時間外労働があった場合でも、通常賃金部分(100%)は既に支払われているため、100%部分の賃金の支払いは不要である。」平成11年3月31日基発168号
歩合給の「100%」の部分、つまり「1」の部分は既に30万円で支払われているため、0.25(割増部分)のみの支払いで良いということなのです。
しかし、これが中々ご理解いただけないようです。あまりに他の賃金と考え方が違うからだと思われます。そこで、この記事では、この部分を詳しく解説します。
先ほどの計算式を以下の表で「いくらの賃金」が「何に対して」支払われているかを細かく分解しました。以下の表をご覧いただくと、ご理解いただけるのではないかと思います。
全て基本給で支払った場合
➀所定労働時間内の労働(160時間)の働きに対する賃金 | 30万円 |
②所定労働時間外の労働60時間の労働に対する賃金(1.25のうちの「1」部分) | 11万2500円 |
③60時間に対する割増部分の賃金(1.25のうちの「0.25」部分) | 2万8125円 |
全て歩合給で支払った場合
①「所定労働時間+所定外」の労働時間を合わせた220時間での成果に対する賃金 | 30万円 |
②220時間に対する時間外労働の割増賃金 | 2万455円 |
もし、社員が220時間で41万2500円(30万+11万2500円)の成果を「歩合給で」出せば、賃金総額は、基本給で支払ったのと同じ金額になります。220時間働いて30万円の成果しか出していないので、このような賃金の違いになります。
歩合給の本質のまとめ(リスクも認識してください)
いかがだったでしょうか?なぜ、歩合給の割増賃金の計算方法は違うのかは賃金の内訳を細かく分解するとご理解いただけたのではないでしょうか?
通常の賃金は労働時間に対して支払われるものであるのに対して、歩合給は成果に対して支払われるものなので、このような計算方法が認められているのです。これが歩合給の本質です。歩合給は、導入しやすい業種と導入しにくい業種がありますが、導入できる企業は導入を検討する価値のある制度だと思います。
しかし、歩合給の導入には大きなリスクが伴います。特に、未払い残業代のリスクです。
■ あまりに多額の賃金の未払いが発生するリスク
もし、違法な導入・運用をしているとして、歩合給だと認められなかった場合、多額の未払い残業代が発生しかねません。先ほどの計算例をご覧いただければ、その額(未払い残業代額)がどれぐらいになるかご理解いただけるはずです。
社員1人の1カ月の賃金総額が12万円も違ってくるのです。3年分遡って通常の賃金の計算方法で支払わないといけなくなった場合、いくらになるでしょうか?それが未払いとされます。そして、歩合給は複数人に導入されるケースがほとんどですよね。その額が何倍にもなります。
あまりリスクを強調するのは私の本意ではありませんが、会社経営に影響を及ぼす事態になりかねません。特に、中小企業にとっては、予期せぬ多額の支払いが発生することで、資金繰りに影響を及ぼす可能性もあります。
■参考文献が少なく導入のハードルが高い
これほどまでに企業の人件費へ影響を及ぼすせいどであるにもかかわらず、参考文献などが少ないです。実際に、導入しようとすると、様々な難しい問題が生じると思います。
就業規則へどう表現したらよいのか?参考になるひな型がなくて、表現の仕方がわからない!
導入するに際して不利益変更になるのではないか?ならないようにするには?
もし、不利益変更になるなら、どうしたらよいか?(導入を止めるしかないのか?)
あげていけばキリがありませんが、どれも重要な問題です。歩合給に関しては、導入の際には専門家に相談することを強くお勧めしています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
執筆者
フェスティナレンテ社会保険労務士事務所
代表・特定社会保険労務士 小嶋裕司