【相談事例】最低賃金上昇の対応策 就業規則の見直し
- 特定社会保険労務士 小嶋裕司
- 2024年11月22日
- 読了時間: 7分
更新日:9月24日

1.最低賃金の上昇に抜本的な対策が必要な理由
近年、最低賃金が大きく上がりました。東京の最低賃金は2014年には888円で、900円を下回ってました。それが、令和に入り1000円を超えました。2024年10月には1163円になりました。
この10年で275円上がり、フルタイムで働いていた場合、月額で46,500円(月170時間で計算)の最低賃金が上がったことになります。そして、2025年10月1日から1226円となることがわかりました。
あまりに急激に最低賃金が上がったため、補助的な業務を行っていた社員の賃金が最低賃金を下回りそうという会社も多くなってきています。
しかし、物価が上がれば資材・原材料・光熱水費等もあがります。売上も変わらなければ大変な状況になります。また、このような厳しい状況下にあっても、人手不足の問題もあり雇用は維持しないといけないでしょう。そもそも、ここで、人員整理を考えるのは本末転倒です。
売り上げは同じ(むしろ、下がっている)
資材等の原価や光熱水費は上がってる
最低賃金は上がり続ける
苦しい状況なので、人件費総額は増やせない
雇用は維持しないといけない
こうなると、最低賃金の問題をどう解決して良いかわからなくなるとは当然のことだと思います。これらを全て満たすにはどうしたら良いでしょうか?しかも、毎年、最低賃金が上がっていくことを前提に考えた場合、小手先の対策ではなく、抜本的な対策が必要です。
2.物価高の中での最低賃金の上昇の解決策(対応策)
先ほどの要件をすべて満たす「現実的な解決策」は一つしかありません。人件費総額から考えることです。つまり、人件費総額を変えずに、最低賃金を下回りそうな社員の時給単価を上げるのです。そのための方法は次の2つに整理できます。
賃金体系を見直す
労働時間を減らす
このページでは、労働時間を減らすことをメインに解説します。テーマを絞った方が有益な話に踏み込んで解説できます。
■ 労働時間を減らすことで、最低賃金の問題が解決する理由
「なぜ、労働時間を減らすことで最低賃金の問題をクリアできるのか」という質問を受けることがありますが、理由は単純です。社員の総労働時間が減れば、その分の人件費が減り、時給単価を上げることが可能になるからです。しかも、労働時間を減らす方向へのシフトは時代の流れにも沿っています。反対も起きにくいです。
では、具体的にどのように労働時間を減らすことができるのでしょうか。その方法として主に2つがあります。詳しく解説します。
2-1.労働時間を減らす2つの方法
まず、大前提として、最低賃金が下回りそうな方の労働時間を減らしても、他の社員に仕事を振り分けるのでは意味がありません。他の社員の残業代が増えるだけです。
そうなると、会社全体の(トータルの)労働時間を減らすことが必要になります。その際の手法として主に2つあります。
業務効率化
法律上の労働時間(残業)削減の仕組みの導入
以下で、分けて解説します。
1つ目 業務効率化
無駄な業務がないか、今までの業務を見直すのが最もシンプルで、しかも、大きな効果があります。以下の記事では「残業の事前申請・許可制」を活用して業務効率化に取り組み、労働時間を劇的に減らした事例をご紹介しています。汎用性の高い事例だと思いますのでお読み下さい。
しかし、そうは言っても、通常の業務効率化には多くの企業が取り組んでいるはずです。それができずに困っている企業が多いのも現実です。その場合、DX(デジタルトランスフォーメーション)化やAIの導入などを進めることが選択肢の一つになってきます。
これらは、一般的に高額な投資が必要だと思われがちです。しかし、高額な投資をしなくても、できることはたくさんあります。できることから始めていかがでしょうか。AIの活用も同様です。AIを活用すれば、アシスタント業務の方の労働時間を減らすことができるはずです。人手不足の問題、そして、人件費の問題を一気に解決しようと考えると、それだけではたりません。しかし、オール・オア・ナッシングで考えず、最低賃金の問題を解決するという目的なら達成できるのではないでしょうか。
2つ目、法律上の労働時間削減の仕組みの導入
しかし、そうは言っても、様々な事情でDX(デジタルトランスフォーメーション)化も、AIの導入も難しいという企業も多いかもしれません。
その様な場合には、業務効率化以外の労働時間削減の仕組みを導入を検討する必要が出てきます。実は、労働基準法には、労働時間に関して、原則に対する例外や特例を設けています。どの会社にも導入可能な労働時間削減の仕組みの他に、業務内容・業種・会社の規模、及び働き方などによる特例・例外がありますので、実際に活用し自社に合った制度設計を行うことで、会社の総労働時間を減らすことが可能です。
そのため、自社に該当する(又は活用できそうな)特例や例外を押さえておくことは必須です。法律上の特例・例外が存在していることの意味を考えて欲しいのです。法律が特例・例外を認めている以上、必ず理由があります。
3.労働時間に関する事項は就業規則に記載することが必要
労働時間に関する何らかの仕組みを導入すると、始業終業時刻、休憩、残業などのルールを変更したり決めたりする必要が出てきます。したがって、就業規則の見直しが必要になります。
DX化やAIの導入で業務効率化で労働時間を減らすのなら就業規則の変更は不要に思われるかもしれませんが、利用に関してルール化は必須です。したがって、いずれにせよ、何らかの制度を導入した場合には就業規則の整備が必要になります。就業規則の見直しを忘れずに行ってください。
4.賃金制度の変更による最低賃金の問題の解消
今回は、労働時間の削減についてお話をしましたが、賃金体系を見直す方法もあります。人件費総額を変えずに適切に人件費を分配するという点では共通していますが、賃金の問題に関しては、実際にご事情を伺わなければ、本当に役立つ解決策をご提案することはできません。社員の抵抗がないのであれば、大改革に取り組めますが、社員の抵抗が大きいようであれば、簡単かつ有効な方法を模索する必要があるでしょう。
そこで、当事務所では無料相談を行っております。当事務所の無料相談は、ご相談日1日、お時間の制限はありません。その場で、御社が抱える課題に対して、解決策を模索しご提案します。
「なぜ、1日とはいえ、時間の制限なく無料相談を行うのですか?」とよく質問されます。確かに、疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、ご説明します。賃金の問題は企業にもたらす影響が大きいです。しかも、法律が絡みます。そのうえ、対応を誤ると労使のトラブルに発展するセンシティブな問題でもあります。
そのような重要な問題に対して、初めてお会いした企業様からお話を伺い、アドバイスをするのに、30分等のお時間の制限を設けては、ご事情を伺うだけですぎてしまいます。そのような無料相談ならお受けすべきではないと当事務所では考えています。きちんと、御社が抱えているご事情を伺って、慎重にお話をさせて頂くためにも、お時間の限定を設けていないのです。
ただし、賃金の問題は月3社限定となっています。また、1社につき1回となっています。詳細は以下のページをご覧ください。
執筆者
フェスティナレンテ社会保険労務士事務所
代表・特定社会保険労務士 小嶋裕司
執筆者プロフィール
就業規則特化の専門家。就業規則の関連業務で99%を超える数少ない社会保険労務士である。年200件超の課題解決実績がある。就業規則の業務を依頼される際に、残業代の問題まで含めると賃金の相談をされないケースはほぼなく、特に賃金規程(賃金制度)に強い社会保険労務士と言える。失敗しない新入社員の賃金設計から、会社の評価と賃金の不一致の解消策、成果主義賃金への移行、手当の導入、最低賃金の上昇に伴う解決策、再雇用者の賃金といった多くの企業が抱える悩みから、他の企業にはない会社独自の課題まで、解決事例は豊富である。M&A前の残業代コンサルティングなど難易度が高い業務経験も多い。