
1.最低賃金の急上昇で悩む企業の傾向
近年、最低賃金が大きく上がりました。東京の最低賃金は2014年には888円で、900円を下回ってました。それが、令和に入り1000円を超えました。2024年10月には1163円になりました。
この10年で275円上がり、フルタイムで働いていた場合、月額で46,500円(月170時間で計算)の最低賃金が上がったことになります。今後は、物価の高騰もあり、更に上がっていくものと思われます。このまま行けば来年には1200円を超えそうです。
しかし、「急激に最低賃金が上がったため、補助的な業務を行っていた一部の社員の賃金が最低賃金を下回りそう」という会社も多くなってきています。
しかし、物価が上がれば資材・原材料・光熱水費等もあがります。売上も変わらなければ大変な状況になります。また、このような厳しい状況下にあっても、人手不足の問題もあり雇用は維持しないといけないでしょう。そもそも、ここで、人員整理を考えるのは本末転倒です。
売り上げは同じ(むしろ、下がっている)
資材等の原価や光熱水費は上がってる
最低賃金は上がり続ける
苦しい状況なので、人件費総額は変えられない
雇用は維持しないといけない
こうなると、最低賃金の問題をどう解決して良いかわからないという企業も出てきますよね。これらを全て満たすにはどうしたら良いでしょうか?しかも、毎年、最低賃金が上がっていくことを前提に考えた場合、小手先の対策ではなく、抜本的な対策が必要です。
2.物価高の中での最低賃金の上昇の解決策(対応策)
先ほどの上限をすべて満たす解決策となると、賃金体系を見直すのでなければ、労働時間を減らすしかありません。それが唯一の抜本的な対応策だと考えています。では、具体的にどのように労働時間を減らすことができるのでしょうか。その方法として主に以下の2つがあります。詳しく解説します。
2-1.労働時間を減らす2つの方法
まず、大前提として、最低賃金が下回りそうな方の労働時間を減らしても、他の社員に仕事を振り分けるのでは意味がありません。他の社員の残業代が増えるだけです。
そうなると、会社全体の(トータルの)労働時間を減らすことが必要になります。その際の手法として主に2つあります。
業務効率化
法律上の労働時間(残業)削減の仕組みの導入
以下で、分けけて解説します。
1つ目 業務効率化
無駄な業務がないか、今までの業務を見直すのが最もシンプルで、しかも、大きな効果があります。以下の記事では「残業の事前申請・許可制」を活用して業務効率化に取り組み、労働時間を劇的に減らした事例をご紹介しています。汎用性の高い事例だと思いますのでお読み下さい。
しかし、そうは言っても、通常の業務効率化には多くの企業が取り組んでいるはずです。それができずに困っている企業が多いのも現実です。
そこで、DX(デジタルオートメーション)化やAIの導入などを進めることが選択肢の一つになってきます。確かに、DX化により、人間が行っていた業務を減らすことで労働時間は削減しますが、本格的な導入にはお金がかかります。そのようなことに高額な投資を行うぐらいなら、社員の賃金をアップしてあげた方が良いと個人的には思います。あくまでも、多額の投資を行い最新技術の導入を図るのは人手不足の解消のためであって、このようなケースで導入するものではないと思います。
しかし、高額な投資をしなくても、できることはたくさんあります。始められるところから導入してはいかがでしょうか?AIの活用も同様です。AIを活用すれば、アシスタント業務であれば労働時間を減らすことができるでしょう。
2つ目、法律上の労働時間削減の仕組みの導入
しかし、そうは言っても、様々な事情でDX(デジタルオートメーション)化も、AIの導入も難しいというのが現実かもしれません。あれだけDX化の必要性が説かれても、中小企業では(とりわけ、老舗企業では)、中々普及しませんでした。
AIも同様で、一気に導入するのは危険ですよね。生成AIとはどのようなものかを学んで補助的に使うのが現時点では現実的な選択だというご意見も多く、そのご意見には一理あります。
その様な場合には、業務効率化以外の労働時間削減の仕組みを導入を検討する必要が出てきます。労働基準法も労働時間削減の仕組みを用意しています。それらを導入することで労働時間を減らすことが可能になります。
■法律上の労働時間削減の仕組みの具体例(変形労働時間制)
1つだけ具体例を挙げると、変形労働時間制という制度があります。変形労働時間制とは、柔軟な始業・終業時刻を認めることで労働時間を削減する制度です。この制度の導入で多くの企業では労働時間の削減が可能になります。
フレックスタイム制などが有名ですが、導入企業の割合では「1か月単位の変形労働時間制」「1年単位に変形労働時間制」の方が圧倒的に多いです。
変形労働時間制では労働時間は減らない?!
先日、「変形労働時間制を導入していますが、それほど、労働時間は減りませんでしたよ」と仰られた企業様がありました。
お話を丁寧に伺ったところ、「完全週休二日制が困難なので導入した制度(法定労働時間をクリアするために導入した制度」になっていたからです。導入目的が違っていたのです。
「変形労働時間制を導入すれば労働時間は減る」と言っても、制度の理解と経験は必要です。誰が行っても同じなんてことはありません。
DX化やAIの活用で労働時間が減る(人手不足が解消される)と言っても、導入者の設計によって違いが出てきますよね。それと同じことだとお考えください。
3.労働時間に関する事項は就業規則に記載することが必要
労働時間に関する何らかの仕組み(制度)を導入すると、始業終業時刻、休憩、残業などのルールを変更したり決めたりする必要が出てきます。したがって、就業規則の見直しが必要になります。
DX化やAIの導入で業務効率化で労働時間を減らすのなら就業規則の変更は不要に思われるかもしれませんが、利用に関してルール化は必須ですよね。したがって、いずれにせよ、何らかの制度を導入した場合には就業規則の整備が必要になります。就業規則の見直しを忘れずに行ってください。
4.賃金の問題でお悩みなら当事務所の無料相談をご利用ください
今回は、労働時間の削減についてお話をしましたが、賃金体系を見直す方法もあります。賃金の問題に関しては、一般化することが難しく、会社のご事情を伺ってみない事には真にお役に立つお話は出来ません。
そこで、当事務所では無料相談を行っております。当事務所の無料相談は、ご相談日1日、お時間の制限はありません。その場で、御社が抱える課題に対して、解決策を模索しご提案します。
「開業したての新人社労士ならわかりますが、なぜ、就業規則に専門特化した事務所が時間の制限なく無料相談を行うのですか?」とよく質問されます。確かに、1日とは言え、時間の制限なく行うと聞けば、疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、ご説明します。
賃金の問題は企業にもたらす影響が大きいです。しかも、法律が絡みます。そのうえ、対応を誤ると労使のトラブルに発展するセンシティブな問題でもあります。
そんな重要な問題に対して、初めてお会いした企業様からお話を伺い、アドバイスをするのに、30分程度のお時間を設けては、ご事情を伺うだけですぎてしまいます。そのような無料相談ならお受けすべきではないと当事務所では考えています。
きちんと、御社が抱えているご事情を伺って、慎重にお話をさせて頂くためにも、お時間の限定を設けていないのです。豊富な事例をもった専門事務所であると自負しておりますので、御社の事情に合った解決策のご提案はできると思います。
ただし、賃金の問題は月3社限定となっています。詳細は以下のページをご覧ください。
執筆者
フェスティナレンテ社会保険労務士事務所
代表・特定社会保険労務士 小嶋裕司
執筆者プロフィール
就業規則特化の専門家。就業規則の関連業務で99%を超える数少ない社会保険労務士である。年200件超の課題解決実績がある。就業規則の業務を依頼される際に、残業代の問題まで含めると賃金の相談をされないケースはほぼなく、特に賃金規程(賃金制度)に強い社会保険労務士と言える。失敗しない新入社員の賃金設計から、会社の評価と賃金の不一致の解消策、成果主義賃金への以降、手当の導入、最低賃金の上昇に伴う解決策、再雇用者の賃金といった多くの企業が抱える悩みから、他の企業にはない会社独自の課題まで、解決事例は豊富である。M&A前の残業代コンサルティングなど難易度が高い業務経験も多い。